数年前に亡くなった母の話です。

僕が小さい頃から、母は大の犬嫌いでした。

母が子どもの頃野良犬がそこら中にいたようで、 その頃なんどか犬に追いかけられたりしたせいで、 小型犬でさえも怖くなってしまったようです。

だから、僕がどんなにワガママを言っても微笑んでいた母でしたが、 いくら僕が犬を飼いたいと言ってもそれだけは駄目だと、 首を縦には振ってくれませんでしたね。

ただあるとき、僕が中学生の頃に小さな雑種犬を拾ってきたんです。

外は雪が降って凍えそうでした。

さすがにそれを追い返すのはしのびないと思ったのか、母も追い返しはしませんでした。

その日からずるずると飼い始めたのが最初に実家の飼い犬となった犬だったんです。

犬は人馴れするタイプで、 嫌がっていた母も次第に世話をしてくれるようになりました。

月日が流れ、その犬もついに旅立ってしまいました。

あれだけ犬嫌いだった母でしたが、その犬の死から立ち直るには半年ほど要しました。

僕たちよりも落ち込んでいたくらいです。

その母が残した遺言に、“あの犬の墓の土をかけてくれ”というものがありました。

その言葉通り、犬の墓の土を母のお墓の側にかけました。